樽について
かつて、スコットランドではウイスキーにかかる税金が莫大なものとなったため、製造業者はハイランド地方の奥地に隠れ、ウイスキーを密造するようになりました。さらに国の目を逃れるため、古いシェリー樽にウイスキーを隠したことがスコッチウイスキーの芳醇な香りを生む源となりました。
また米国のバーボン業界では、熟成用の樽は内側を焼いた(チャーリング) 新樽しか使用できないという規則を作りました。
このようにウイスキーを作る上で、樽は非常に重要な存在になっています。
樽の効果
樽は英語でカスクといいます(バレルはサイズを表す言葉)。世界のウイスキーは様々なカスクを貯蔵用に使用していて、サイズの違いや使用される材質の違いによって分類されます。サイズや樽材の違いは、熟成中のスピリッツにそれぞれ異なったフレーバーを生んでくれます。
カスクがスピリッツに与える影響は、樽の大きさと材質によって変わります。カスクが小さいほどスピリッツが樽内に接触する割合が多くなり、カスクが大きいと樽とスピリッツが接触する割合は少なくなります。
ようするに、小さなカスクは大きなカスクよりも短期間に、よりたくさんの特性をスピリッツに与えます。ただ小さいカスクだと、木の影響が強すぎるウイスキーになりやすいということにもなります。
カスクにスピリッツを入れる回数も、最終的なウイスキーのフレーバーに大きな影響があります。最初のフィル(未使用) だと、カスクがスピリッツに与えるフレーバーや色の濃さは最大で、2回目、3回目になるとこれらの要素は徐々に減少します。したがって使い果たされたカスクは、ただ液体を保管しておくだけの容器ということになります。
※ フィルとはバーボン樽やシェリー樽をスコッチウイスキーで使う場合の呼び名。初めてその樽を使うことをファーストフィルと呼びます。2回目はセカンドフィル、3回目はサードフィルとなります。また、2度目以降をリフィルと呼ぶこともあります。
※ カスクの大きさを知ることも重要ですが、フィルの回数を知ることもとても重要です。
熟成中の樽の中では様々な化学変化が発生し、結果としてまろやかなウイスキーやブランデーが完成します。しかし実はそのメカニズムは現在も科学的に100%解明されていません。酸化反応や、水・エタノールの状態変化、エステル成分の生成などが深く関係しているようです。
そのブランデー・ウイスキーの樽熟成の過程について「きた産業」さんから、とても化学的で専門的な考察論文が出ていますので参考にしてみてください。
酒類の熟成についての一考察(1)-ウイスキーの熟成機構を参考にして-
オークの種類
アメリカンホワイトオーク
北米産のホワイトオークを使用。バニラ、ココナッツ、甘い香辛料のフレーバーを与えます。バーボンに使用するカスクのすべてがこのタイプ。また、シェリーやワインにも広く利用されています。スコッチでは約95%がホワイトオークだと言われています。
ヨーロピアンオーク/スパニッシュオーク/コモンオーク
ヨーロッパ産のオークを使用。多くのシェリーカスクに使用されるオークです。タンニンを多く含むため、口の中が渇くような効果をスピリッツに与えます。ドライフルーツ、クローブ、松脂のようなアロマももたらします。
セシルオーク/フレンチオーク
もともとはコニャック用として使われていましたが、今ではスコッチウイスキーと日本のウイスキーにも使用されています。フレーバーはホワイトオークとヨーロピアンオークの中間で、タンニン量が多く、スパイシーさもあります。
ミズナラ/ジャパニーズオーク
日本古来のミズナラを使った樽。希少で高価なこのオークがいま人気を集めているのは、伽羅(キャラ)や白檀(ビャクダン)などの香木を思わせる強い芳香性のアロマをもたらしてくれるからと言われています。他にもパイナップルやココナッツのアロマが得られます。
樽のサイズ
バーボンバレル:容量200ℓ:材質アメリカンホワイトオーク
新樽の内面を充分に焼き焦がして(チャーリング) 使用します。名前のとおり、バーボンの熟成はほぼこの樽で行います。新樽以外は使用できないため、使用済みのバーボンバレルはスコッチウイスキー、ジャパニーズウイスキー、アイリッシュウイスキー、カナディアンウイスキー、ラム、テキーラなどのメーカーに売却されます。
ホッグスヘッド:容量225ℓ:材質アメリカンホワイトオーク
バーボン樽を解体し、容量を増やすために樽材を追加し、新しいヘッド(鏡板)を用いて組み上げます。スコッチやアイリッシュウイスキーのほとんどが、このサイズの樽で熟成されます。
バット:容量500ℓ:材質ヨーロピアンオーク
主にシェリーの熟成に用いられるため、シェリーバットとも呼ばれています。シェリーの貯蔵に使用された後は、ウイスキーメーカーの手に渡ります。アメリカンホワイトオークを材質とするものもあります。近年では、すべてのシェリーバットがウイスキー業界の求めに応じて製造されています。
パンチョン:容量500ℓ:材質ヨーロピアンオークまたはアメリカンオーク
バットと同じ容量ですが、バットよりも丈が短くて横幅が広いのでずんぐりとした形。スコッチではあまり使われず、主にジャパニーズウイスキーで使用しています。
マデイラドラム:容量650ℓ:材質フレンチオーク
一般的には二次熟成(フィニッシュ) に使用されますが、最近では長期熟成用として実験的に用いる蒸溜所も現れています。
バリック:容量225~300ℓ:材質アメリカンホワイトオークまたはフレンチオーク
ワイン熟成用の樽として使用
ゴルダ:容量700ℓ:材質ヨーロピアンオーク
貯蔵用として法的に認められた最大サイズのカスク。シェリー酒をスコットランドやアイルランドまで船で輸送するための樽ですが、近年はほとんど見られません。
クォーターカスク:容量40~50ℓ:アメリカンホワイトオーク
アメリカンホワイトオークで特注生産され、ビーム・インターナショナルがラフロイグやアードモアを短期間でフィニッシュするために使っています。
それぞれの樽の熟成方法
新樽と古樽の使い分け、組合せによって熟成の可能性は無限に拡がります。
新樽について
一度もお酒を熟成させていない新しい樽では、フレッシュな樽材と焼き面である為、古樽に比べ木材の成分による色付きが早く香りも強いです。
アメリカのバーボンやテネシー・ウィスキーでは新樽で2年以上熟成させることが法律で定められています。
古樽について
お酒を入れて使用していた樽の総称を言います。例えばバーボンを入れていた樽をバーボン樽、ブランデーならブランデー樽と区別します。
熟成による色付きの濃さと風味の豊かさは必ずしも正比例するわけではなく、特に古樽の場合は以前に使われていたお酒によっても風味は大きく異なります。また新樽に比べ、木材の成分の抽出速度が遅いので、樽の呼吸による熟成とのバランスも良く、長期間の穏やかな熟成に適しています。
マリッジ、ウッドフィニッシュ
ウッドフィニッシュとは、通常の樽熟成の後に種類の違う樽に詰め替えて、独自の風味を創りだす方法です。
例えば、バーボン樽で熟成したものをワイン樽に詰め替えることで味わい深いお酒に仕上げるといった具合に、そのワインの銘柄を利用して新しいブランドを創りだすこともできます。
マリッジとは、熟成後の二つのお酒をブレンドして更に樽に戻して熟成させることを言います。
また、一度マリッジしたお酒同士をさらにブレンドして樽熟成させるダブルマリッジという製法もあります。