蒸留(Distill)

ラテン語でDistillare(滴り落ちる) に由来する蒸留とは、液体を構成するそれぞれの内容物質を分離するため、蒸気になるまで沸騰させたのち、濃縮して集めるその過程をいいます。言うまでもなく、蒸留はウイスキーやその他スピリッツの製造過程において、核となる部分です。

蒸留には、2通りの基本的方法があります。ひとつは単式蒸留。低アルコールの液体を沸騰させ、気化した蒸気を確保して冷やすことで高濃度のアルコールを得ます。それからもう一度同じ工程を反復することによって、高アルコール度数のスピリッツへと生まれ変わらせるのです。もうひとつは連続式蒸溜。ビール状の液体を連続的に一方の端から注ぎ込み、完成したスピリッツがもう一方の端から集められます。

現在,世界の蒸留酒に使われている単式蒸留機と連続式蒸留機はずれもアランビックを基本とし,それを改良・変形したものといえます。

単式蒸留器の蒸留釜の材質は、イオウ化合物をはじめ嫌な成分を取り除くことのできる銅製です。連続式蒸留器でもそれは同じで、蒸留塔本体を銅でつくるか、そうでない場合でも棚やコンデンサーなどポイントとなる部分には必ず銅が使用されています。

単式蒸留(ウイスキーを主に説明します)

蒸留工程は1~2回、場合によっては、3回または4回行われます。蒸留回数は蒸溜所によって違うため、そこでさまざまな個性が生まれます。

単式蒸留、初留の工程図

初回の蒸留を行う釜をウォッシュスチルもしくはビールスチル、日本語では初留釜と言います。2回目の蒸留を行う釜をローワインスチルまたはスピリットスチル、日本語では再留釜と言います。だいたい初留釜は再留釜の約2倍の大きさがあります。

ウォッシュ(発酵液、もろみ、ビールなどの言い方も) は、中身が1/2から2/3になるまでウォッシュスチル(初留釜) によって凝縮されます。

温められたアルコールが蒸発して気化して長いヘッドの部分を通り、 ラインアームをつたって冷水で外部を冷やされたパイプを通り冷却され、 再び液体に戻ります。

ウォッシュのアルコール度数は6〜7%で、初回の蒸留を終えると、アルコール度数20%前後の液体になります。この蒸留液をローワインと呼びます。

そして2回目の蒸留(再留) が行われます。再留には再留に望ましい度数(およそ30%近く) があり、それに近づけるにはローワインにヘッドとテール(後述します) を合わせたハイワインを用います。

単式蒸留、再留の工程

ここからがディスティラーの腕の見せどころなのです。良質のウイスキーを造るために、悪いものや有害な物質を分離(この作業をカットといいます) し、純粋なスピリッツのみを確保しなくてはならないからです。

まず、ディスティラーは蒸留して最初にスピリッツとなった段階のものを、ホールディングタンクに戻します。最初の段階のスピリッツには好ましくないフレーバーなどが含まれているからです。これをヘッド(フォアショットや前留とも) といいます。

ある規定値に達するとようやくハート(ボディ、本溜、中溜など) と呼ばれるニューメイクの蒸溜液として集めることができます。この段階のスピリッツのみが、樽に入りウイスキーになるのです。

そして得られるアルコールの質がピークに達したと判断すると、もう一度その残りのローワインはテイル(フェインツ、後溜とも) と呼ばれ、よけられてヘッドとともに次の回で再利用ということになる。ヘッドとテイル、それにローワイン(初留で採取した蒸留液) を合わせた蒸留液をハイワインと呼びます。

単式蒸留の再留にできる蒸留液はスピリッツセイフという透明の箱のような装置を通ります。ディスティラーはフォアショット、ミドル、フェインツをそこで見極めるのです。

連続式蒸留

連続式蒸留器のイラスト

アイルランド人のイーニアス・カフェによって完成させられたカフェスチルと呼ばれる連続式蒸留機は1830年には特許(パテント) を申請したことに由来して別名、パテントスチルとも呼ばれます。

日本やスコットランドのグレーン・ウイスキーやバーボンウイスキー、またウォッカ、ジン等のベース・スピリッツなどは連続式蒸溜器によって造られます。単式蒸留で造られるスピリッツよりもアルコール度は高く、フレーバーは軽めのものが多いです。

モロミ塔の塔頂から余熱されたモロミを棚に送り込み、同時に下部から上部へ蒸気を送り込みます。棚には指くらいの大きさの穴が多数開けてあり、下から熱い蒸気が通り抜けてくるのです。そしてこの蒸気によって加熱されたモロミ中の揮発性成分(アルコール成分) が取り出され、冷却されて留出液(液体) に戻り、精留塔に入ります。そして新たなモロミと混合されて再びモロミ塔に送られ、またもや下部から吹き込まれた高温の蒸気で加熱され、再度蒸発することによって度数を高めていきます。精留塔とモロミ塔での、この蒸発と凝縮を繰り返す、いわゆる分留が繰り返し行われる事で、塔の上部まで上がってきた蒸気中のアルコールは数十%まで高められます。そうしてアルコール濃度が94%以上になったところで製品として塔から取出されます。高濃度まで蒸留するため香味成分が少なく、くせがとれた蒸留液が造られるのです。反対にアルコール分がゼロになったモロミは蒸留残液として塔の下から排出されます。

ちなみにモダンスチルという蒸留機を使っている蒸留所もあります。モダンスチルはカフェスチルと比べ、別の機能をもった塔が1~3塔追加されています。


ページのトップへの移動ボタン