ビール

日本において、ビールの主原料は麦芽・ホップ・水、副原料は米・コーンスターチ・糖類などです。

麦芽に温水、副材料を混ぜあ合わせてできた糖化液にホップを加え煮沸して麦汁を造ります。

それを冷まして酵母を加えてアルコール発酵させたのち、数十日間寝かせてビールができます。

それでは各主原料について追っていきます。

ホップについて

ホップがビールに初めて使用されたのはおそらく紀元前1000年頃のコーカサスというのが濃厚です。

世界的にホップの生産地は北半球の寒冷な地方で、緯度でいえば35~55度の間に位置しています。日本では東北地方など気候の冷涼な所で栽培されています。しかし、現在ビール醸造に使用するホップはドイツ、チェコなど海外からの輸入がほとんどです。

ミントの画像

ビールの原料の中で最も特色のあるホップは多年生、雌雄異株のつる性の植物で、ビールの醸造には雌株につく受精していない毬花を8~9月に収穫して使います。

ホップの雌花に付いているルプリンという小さな黄色い粒が、ビールに独特の芳香や苦味を与えてくれます。

ほかにもホップには重要な役割があります。

  1. 雑菌の繁殖を抑え、ビールの腐敗を防ぎます。
  2. 麦汁の過剰なたんぱく質を沈殿・分離させて、ビールを清く澄んだものにします。
  3. ビールの泡もちをよりよくします。

なかでも雑菌の繁殖を防ぐということが当時、ホップが使われるようになった第一の理由だったようです。

ホップにもファインアロマホップ・アロマホップ・ビターホップなど多くの種類があり、ビールの銘柄によりホップの使用種類・比率が異なります。

ビール醸造には、もはや欠かすことのできないホップ。例えばドイツで1516年に制定したビール純粋令では、ビールの原料のひとつとして、明確にホップが記載がされています。しかもドイツのビールは日本のような副材料の使用は認められていません。麦芽・ホップ・水のみ!やりますな。

ちなみにホップを使わないビールもあります。ベルギーのフルート醸造所が造るフルート(GRUUT)というビールです。ご参考までに。

麦芽について

麦芽にするための大麦には二条大麦や六条大麦がありますが、主として二条大麦(ビール大麦)からつくられます。二条大麦がビール醸造用 に使用されるのは次のような必要条件を備えているからです。

  1. 穀粒の大きさ、形状が均一で、なおかつ大粒。
  2. 穀皮が薄い。
  3. でんぷん含量が多く、たんぱく含量が適正。
  4. 発芽力が均一で、しかも旺盛。
  5. 麦芽にした際、酵素力が強い。
  6. 麦芽の糖化が容易で、エキスの発酵性がよい。

ビール大麦は日本各地で栽培されていますが、現在使われているその大部分は品質、価格面で優れているカナダ、オーストラリア、ヨーロッパ各国などからの輸入麦芽です。

麦芽の精製の漫画

★ 麦芽の製造

この工程はビール大麦を溶けやすく、分解されやすい状態の麦芽に加工するところです。

まずホコリやゴミをきれいに取り除き、浸麦槽で大麦に水分を含ませます。

つぎに、発芽室で適度に発芽させたのち、乾燥室で麦芽に熱風をあてて乾燥(焙燥)させます。このときにビールに必要な成分と独特の色、そして芳しい香りをもつようになります。

黒ビールの場合は、通常よりも高温の熱風をあて、麦芽をローストさせます。そうした麦芽をカラメル麦芽といい、それによって濃色のビールになるのです。

ビールの仕込み

ビールの仕込み工程の漫画

まず麦芽を細かく粉砕します。そして、それに米や、コーン、でんぷん(スターチ)などの副原料と温水を混ぜ合わせ、麦汁を造ります。

適度な温度で、適当な時間保持すると、麦芽の酵素の働きで麦汁のでんぷん質は糖分に変わり、糖化液の状態になります。

これをろ過してホップを加え、煮沸します。前述にあるように、ホップはビールに特有の苦味と香りをつけると同時に麦汁中のたんぱく質を凝固分離させて麦汁を澄ませるという大切な働きをします。こうしてできた熱麦汁は次に発酵工程に移されます。


ビールの発酵タンクの漫画

熱麦汁を5℃くらいに冷却し、これに酵母を加えて発酵タンクに入れます。7~8日の間に酵母の働きによって、麦汁中の糖分のほとんどがアルコールと炭酸ガスに分解されます。

こうしてできあがったビールは若ビールと呼ばれ、まだビール本来の味、香りは十分ではありません。

若ビールは熟成タンクに移され、0℃近い低温で数十日間貯蔵されます。無酸素に保たれた熟成タンクの中でビールはゆっくり熟成し、調和のとれた味と香りが生まれてきます。

熟成の終わったビールはろ過され、透きとおった琥珀色のビールができあがります。

こうして2~3カ月かけて出来あがったビールは瓶・缶あるいは樽に詰められて市場に出荷されます。それらは生ビールが大部分ですが、一部に熱による処理(パストリゼーション)をしたビールもあります。

ビールの種類

ビールは材料や酵母の種類によって、その区分けのしかたがあります。

★酵母の種類による分け方

発酵の終わりに酵母が沈む下面発酵酵母を使用したビールと、発酵中に酵母が液の表面に浮かび上がる上面発酵酵母を使用したビールがあります。

下面発酵ビールの代表格はピルスナーで、低温発酵で造ります。日本の四大メーカー(キリン、アサヒ、サッポロ、サントリー)のビールがそれにあたります。

上面発酵ビールの代表格はエールで、常温発酵で造ります。日本の地ビールはほぼこれに属します。

★熱処理の有無による分け方

酵母等による変質を防ぐため、また殺菌のための熱による処理(パストリゼーション)をしたビールと、しない生ビール。

生ビールの殺菌は高密度のフィルターを通して行います。

★原料による分け方

麦芽100%ビールと、米・コーン・スターチ等の副原料を使用したビール。

ビールの本場ドイツでは副材料の使用は一切認められておらず、すべて麦芽100%で造られています。日本のビールでは、エビスやモルツが麦芽100%です。

ほかには、ヴァイツェンやヴィットなどの白ビールのように、小麦麦芽を使用するビールもあります。

★色による分け方

通常の淡色ビールと、中濃色ビール、濃色ビールがあります。

ピルスナーが淡色、エールの一部が中濃色、黒ビールが濃色タイプのビールにあてはまります。

世界のビール

ピルスナー

1842年チェコのピルゼンで生まれた傑作で、そこの市民醸造所でつくられたピルスナーウルケルがオリジナルです。ホップの効いた爽快な香味の淡色ビールで、このタイプのビールは世界中に最も普及しています。アルコール分は4.0~5.0%<下面発酵>

ドルトムンダー

ドイツのドルトムント地方で発展した淡色ビールです。苦味は比較的弱いが発酵度が高く日持ちがよいため、今日の輸出ビールの先駆をなしました。エキスポートと呼ばれるビールはこのタイプです。アルコール分は5.0~5.5%<下面発酵>

ボック

ドイツのアインベックで生まれ、バイエルン地方で発展したビールです。元は濃色ビールでしたが、今は淡色ビールが多くなっています。ホップの香りも芳醇で、こくがありアルコール分も高く6.0~6.5%。これをさらに濃くしたものがドッペルボックで、アルコール分は7.5~13.0%<下面発酵>

エール

イギリスで発展したビールです。淡色でホップの香味を効かせたペールエール、中濃色でホップの香味を抑え麦芽の香りを出した穏やかなマイルドエール、これより色の濃いブラウンエール、濃厚なエキスポートエール、ホップの苦味の効いたビターエール、スコットランドの濃色濃厚のスコッチエール等があります。アルコール分は2.5~5.5%<上面発酵>

ゴールデンエール

評論家、M・ジャクソンが命名しました。名前のとおり、淡く美しい金色で、アルコール度数が高くコクはあるが口当たりはまろやかです。度数の高いものは、とくにストロング・ゴールデン・エールといいます。代表銘柄はベルギーのデュベル。

アルト

ドイツのデュッセルドルフで発展した濃色ビールです。ホップの香味を効かせたのが特徴で、ほぼ英国産のエールに相当します。アルコール分は4.5~5.5%<上面発酵>

ケルシュ

ドイツのケルン特産の淡色ビールで、製法、香味ともアルトに似ていますが、淡色麦芽だけを用いるので色は薄くなっています。アルコール分は4.3~5.0%<上面発酵>

ヴァイツェン or ヴァイスビア

ドイツのバイエルン地方で発展したビールで淡色ビールが多いですが、一部濃色ビールもあります。

小麦(ドイツ語でバイツェンという)麦芽を50%以上使用して苦味がたいへん弱く、炭酸ガス含量も高く、清涼感があります。本来はびん中で後発酵させるのですが、びん底にオリが沈むため、ろ過してびん詰めするものもあります。輪切りのレモンを添えると一層風味が増します。別名白ビールとも呼ばれています。アルコール分は5.0~5.5%<上面発酵>

ヴィットビール

主にベルギー、他にはオランダで醸造されます。大麦の麦芽と麦芽化していない小麦で造られていて、。酵母と小麦タンパク質によって冷やすとビールが黄色がかった乳白色になり、ヴァイスビア同様白ビールとも呼ばれています。代表銘柄はヒューガルデン・ホワイト。<上面発酵>

トラピスト

ベルギーに伝わる古いビールで、修道院でつくられていたところから、この名が付きました。イギリスのエールに近く高濃度の濃色ビールで、びん中での後発酵も行われます。代表銘柄はシメイ。アルコール分は6.0~10.0%<上面発酵>

デュンケル

ミュンヒナーデュンケルとデュンケルヴァイツェンがあり、一般的にデュンケルというとミュンヒナーデュンケルを指します。

ミュンヒナーデュンケルはミュンヘンで造られる<下面発酵ビール>です。

デュンケルヴァイツェンは小麦を主原料にした<上面発酵ビール>です。

どちらもローストさせた麦芽を使用し、ビスケットのような甘みとコクが苦みを和らげています。色が濃いビールは味がくどいイメージがありますが、デュンケルの場合はラガービールらしいスッキリ感を持ちつつ、苦みと甘みがバランスよく調和した、非常に飲みやすい味に仕上がっています。

ポーター

1722年にロンドンでつくられ急速に発展しました。ロンドンのポーター(荷物を運搬する人)が好んで飲んだところから、この名が付いたといわれています。濃厚でホップの苦味の強い濃色ビールで19世紀中頃にスタウトが現れて急激に衰退しました。アルコール分は5.0~7.5%<上面発酵>

スタウト

1847年イギリスで原料に砂糖の使用が許可されたので、ポーターの製法で原料の一部に砂糖を用いてつくられたビールです。アルコール分は4.0~8.0%

アイルランド、ダブリンのギネスを代表とする濃厚でホップの苦味の強い濃色ビールのほかに、スイートスタウトと称する低発酵性の甘いスタウトもつくられています<上面発酵>

ランビック

ブリュッセル地方でつくられる、ベルギーを代表する伝統的なビールです。

大麦麦芽のほかに小麦も使用され、わざわざ古いホップを使います。

培養酵母は用いず、空気中に浮遊している酵母やバクテリアで、1~2年またはそれ以上自然発酵させます。特有の香りがあり、酸味が強いので、他のビールで割るか甘味料を加えて飲むのが一般的です。

グーズはランビックの一種で、できあがったランビック1/3と1年程度自然発酵させた若いランビック2/3を混ぜて1年間発酵後びん詰めし、びん中でさらに発酵させたもので、発泡性が強くシャンパンのような風味があります。いずれもアルコール分は通常5.0~6.0%。<自然発酵>

アメリカビール

アメリカで発展した軽いピルスナータイプのビールを指します。とうもろこし等の副原料を多量に用いて、ホップの苦味を抑え、さらに炭酸ガス含量を高めて軽い香味の清涼感が強いのが特徴です。カナダ、中南米の淡色ビールもほとんどこのタイプです。アルコール分は約4.5%<下面発酵>

ライト

1960年頃よりアメリカで発展した淡色のビールです。原麦汁濃度を下げ発酵度を高めて、残糖を少なくしてカロリーを2/3~1/2に下げています。アルコール分は2.8~4.3%<下面発酵>


ページのトップへの移動ボタン