リキュール<Liqueur>
語源は溶かすという意味のラテン語のLiquefacere(リケファケレ)、液体という意味のLiquor(リクオル) などが古代フランス語のlicur(リキュール) となり、現在のスペルに変わったものとされています。
リキュールという名が定着する以前のフランスでは、エリクシルと呼ばれていたそうです。エリクシルとは錬金術の用語で、卑金属を貴金属に変える触媒となる霊薬を意味するアラビア語。エリクシルは数多くの病気を治す薬酒的な意味合いの強いものであったと思われます。いると考えられていた。
西欧中世の修道院では、自家用にいろいろな薬効のある薬(アルコール抽出) をつくっており、これらをエリクシルと名付けていました。
リキュールにはさまざまな製法がありますが、一般的には香味原料からの成分の抽出、配合、熟成、仕上げの工程で造られます。
大きく混成酒というカテゴリーにおいて分類してみると、醸造酒をベースにしたものと蒸溜酒をベースにしたものがあります。
その中で、たとえば醸造酒のビールをベースにした混成酒はビールの一種(フレーバービール) になり、ワインをベースにした混成酒はサングリアやベルモットなどのフレーバードワインや、シェリーなどのフォーティファイドワイン、またサングリアやベルモットなどのフレーバードワインなどに分類されます。
つまりはリキュールのベースはスピリッツ(蒸溜酒)であり、それになんらかの香味成分を加えたものとなります。
日本の酒税法では「リキュールとは、酒類と糖類その他の物品(酒類を含む)を原料とした酒類で、エキス分が2%以上のものをいう。ただし、清酒、合成清酒、焼酎、みりん、ビール、果実酒類、ウイスキー類、および発泡酒に該当するものは除かれる」となっています。
歴史
薬用酒として誕生
リキュールの発明者は紀元前400年ごろに実在した古代ギリシャの医聖ヒポクラテスだといわれています。ヒポクラテスは薬草をワインに溶かし込んで、一種の水薬を造り上げました。
現在のリキュール、つまりスピリッツをベースにした混成酒の創案者は、ブランデーの創始者ともいわれるスペインの錬金術師(1235~1312) とその弟子だといわれています。彼らはスピリッツにレモン、ローズ、オレンジの花、スパイスなどの成分を抽出して造り上げたそうです。
彼らの死後1346年、ヨーロッパにペスト菌が伝染、黒死病が蔓延し、多くの生命が失われました。このときスピリッツに薬草を溶かし込んだエリクシルは貴重な薬品として扱われました。
一方では同じ頃、修道院でもリキュール造りが盛んに行われていました。モンクス・リキュール(修道士のリキュール) と呼ばれるもので、ラテン語の文献に精通し、錬金術(蒸溜技術) を学べる環境にあった修道士たちが薬草を原料に薬酒をつくり、近隣住民の滋養強壮に分け与えたりしていました。
15世紀になるとイタリアが先導してリキュールが造られていきます(すでに14世紀には薬用酒を輸出)。ミケーレ・サボナローラ医師がロゾリオというリキュールを開発します。ある病弱な婦人に生命の水と讃えらたブランデーを薬としてすすめたのですが、彼女は飲みませんでした。
そこでミケーレはブランデーにバラの花の香りとモウセンゴケの味を溶かし込んだリキュールを開発し、ロゾリオと名付けてすすめました。すると婦人はたいそう気に入り、ロゾリオを薬として飲むようになったのです。ロゾリオは現在でも南イタリアで人気のあるバラの香りのリキュールです。
より美味しく
16世紀にイタリアのリキュールをフランスに伝え、リキュールの全盛期時代をもたらしたのはカトリーヌ・メディチ。彼女はのちのフランス皇太子アンリ2世に嫁ぎ王妃となりました。そして彼女が連れていた調理人の中の一人がポプロというリキュールをパリに紹介したという記録があります。
王妃の影響で貴族、領主、諸侯の館などでリキュール造りが盛んになり、やがて市民の間にも新たな酒として知られるようになりました。これは大航海時代に突入してアジアや新大陸のスパイスがもたらされ、試される原料が増えたことも影響しています。
17世紀後半から18世紀前半にかけてリキュールに愛飲したのがルイ14世。彼は老化防止、消化促進のためにリキュールを好んで飲み、製造を奨励しました。同時に薬としてだけでなく、その味を好む傾向も生まれ、やがてヨーロッパ中に広まっていきました。
そして現代へ
今では世界中のフルーツが流通するようになり、また技術的な革新もすすみ、リキュール事情は大きく変わりました。もちろん古典的な重厚な香味のリキュールも愛されつづけているが、甘美さを失うことなく、低アルコールでライト、口当りのよいリキュールが主流となりつつあります。
とくにトロピカル・フルーツをはじめ、果汁をたっぷり使用したフレッシュ&フルーティーなタイプが続々と誕生。濃縮技術の向上によって凍結濃縮という熱をかけない方法が生まれたり、工程上のさまざまな技術革新により果汁のフレッシュさが保たれるようになりました。
工程
まず、ベースにどのような蒸留酒を使用するかを決めます。このとき、蒸留を繰り返してエタノールを極めて高い濃度にまで濃縮して作られた中性スピリッツ、もしくはウォッカのようにクセの少ないスピリッツ、つまりエタノールと水の混合物に近い蒸留酒を選択することが多いようです。なぜなら、そういった蒸留酒をベースにすることによって、加える香味成分の邪魔にならないようにするためです。
もちろん、あえてクセのある蒸留酒を選択し、そのクセを活かすという方法を取る場合もありますし、中には複数の蒸留酒を混ぜたものをベースとすることもあります。
ベースの蒸留酒もしくは水に、香味原料からの成分の抽出を行います。その方法は次の四つです。
蒸留法
ベースの蒸留酒もしく水に、香味原料を混合し、それを蒸留して香味成分だけを残す方法。蒸留後、甘味料や着色料を加えることもあります。
にごりのない澄んだリキュールを作ることができるので、高級なリキュールはこの方法で作られることが多いです。
ただし、繊細な芳香を残したい場合や、ベリー系の果実のように加熱によって変質してしまう香味原料を使用する場合には向きません。
浸漬法
浸漬法とは漬け込むことで、冷浸漬と温浸漬があります。
冷浸漬法
ベースの蒸留酒に香味原料をそのまま漬け込んでしまう方法。期間は特に決まっていません。日本の家庭で作られる梅酒・カリン酒などの果実酒は、普通この方法を用います。
温浸漬法
湯に香味原料を漬け込んで、湯が冷えたらベースの蒸留酒を加えておく方法。期間は決まっていません。
いずれの方法も、甘味料や着色料を加えることもあります。
エッセンス法
ベースの蒸留酒に、別途抽出しておいたエッセンスオイルを加えて香りを付ける方法。すなわち香料の添加です。合成香料が用いられることもあります(安価のリキュールには多い)。
香料としてだけではなく、味を補うための調味料としてエッセンスオイルを加えることもあります。
パーコレーション法
香味原料に、ベースの蒸留酒または水を循環させながら、香りや味を抽出する方法。コーヒーを抽出する際のパーコレータ法と似ています。
加熱によって変質してしまう香味原料から成分の抽出を行う際にこういった方法を用います。
上記の方法ででき上がった原酒をブレンドしたり、そこにさらに香味液を加えたりもします。そして完成されたリキュールは一定期間熟成したのち製品化されます。
分類
リキュールはその香味成分によっていくつかに分かれます。
香草・薬草系
ハーブや薬草、スパイスなどを主原料とします。中世に薬としての役目を担っていた修道院系のリキュールの大部分はここに属します。それ自体で味わうのはもちろん、果実や種子を主原料としたリキュールなどにもアクセントや隠し味として使われることが多いです。ハーブなどの香りや独特の苦味が特徴です。
非常に長持ちするタイプなので賞味期限は長めですが、香りが大切な種類なので、香りの変質を防ぐために開封後は早めに飲むほうがいいでしょう。
代表銘柄:シャルトリューズ、ベネディクティン、カンパリ、ペルーノ、リカール、ティフィン、ヴァイオレット
果実系
フルーツの果肉や果汁、果皮を主原料とします。現代では、製造量や種類が最も多いリキュールです。嗜好品としての要素が強く、カクテルだけでなくお菓子などにも使われることが多い人気の種類です。
果肉や果実の成分が傷む可能性を考えると、賞味期限は比較的短くなっています。特にカシスやフランボワーズなどのベリー系は加熱処理がされてないため、冷蔵保存が必修です。
代表銘柄:キュラソー、ピーチ、チェリー、梅酒、カシス、ストロベリー
ナッツ・種子系
コーヒー豆やカカオ、果実の種子や豆類などを主原料とします。深い風味と甘みが特徴で製菓や食後酒に向いています。
代表銘柄:コーヒー、カカオ、クルミ、ヘーゼルナッツ、アマレット
その他
卵やクリーム、ヨーグルトなど、たんぱく質や脂肪分を多く含んだものを原料とします。このカテゴリーのリキュールは必ず冷蔵保存が必要です。
代表銘柄:クリームリキュール、アドヴォカート