酒精強化ワイン(FORTIFIED WINE)
酒精強化とは、ブドウを発酵させる際に強いアルコールを加えて発酵をストップさせる手法です。発酵の過程で液中のアルコール度数が一定を超えると、酵母が働かなくなり、糖の分解が止まる現象を利用するのです。
発酵を止めるために加えるアルコールは、そのワインと同じブドウが原料のブランデーを用いることがほとんどです。発酵の、どの段階でブランデーを加えるかによって、甘口か辛口かの違いが生じます。未発酵または発酵途中に加えると糖分が多く残るために甘口となります。逆に発酵後に加えたものは辛口となります。
シェリー酒<Sherry>
シェリーは、スペインの南部、アンダルシア州のヘレス、およびその周辺地域で生産される酒精強化ワイン(フォーティファイドワイン)です。ワインの発酵過程の後半でアルコールを添加して酒精強化が図られます。
他の酒精強化ワインは、おおむね発酵の初期段階で酒精強化されるため甘口になるものが多いのですが、シェリーは醗酵の後半でアルコール添加が成されるので、糖分はすべてアルコールに変化しており、したがって辛口が主流となります。
その後、酸化を伴う熟成過程を経るので、一般的なワインで欠陥とされる酸化を肯定的に利用しているといえます。
ポルトガルのポート・ワイン、マデイラ・ワインとともに、世界三大酒精強化ワインのひとつです。
白ワインの一種であるシェリーは、パロミノ種という白ブドウが原料なものがほとんどです。
他にはペドロヒメネス種のブドウを用いた甘口シェリーペドロヒメネスもあります。
シェリー酒の種類
【 フィノ 】
規定アルコール度数は15~18%で熟成期間は3~6年。
【 マンサニーリャ 】
製造方法はフィノと同じですが、海沿いのサン・ルーカル・バラメーダ周辺で造られるものは、マンサニーリャと呼ばれます。規定アルコール度数は15~19%で熟成期間は3~10年とフィノに比べて熟成期間が長いものもあります。。色合いはフィノよりも淡白で、味わいは塩気を感じます。
< アモンティリャード >
琥珀色で柔らかな辛口。フィノとオロロソの中間のような味わいがあります。規定アルコール度数は16~22%です。熟成期間が長いほどアルコール度数も高くなります。
【 オロロソ 】
規定アルコール度数は17~22%。フロールなしで酸化熟成しているために色合いが濃く、ブランデーやアメリカンコーヒーに近い。香り豊かで味わいはまろやかな中にコクを持っています。
【 パロ・コルタド 】
規定アルコール度数は17~22%。酸化熟成させたシェリーの中でもとくに微妙な個性を持つものをこう呼びます。オロロソのコク、アモンティリャードの香りを備えています。フィノやアモンティリャードの熟成途上で、意図せずにフロールが消失してオロロッソ的になったもので、アモンティリャード のように意図的にアルコールを添加してフロールを消滅させることとは異なるようです。
【 ペドロヒメネス 】
極甘口シェリー。ペドロヒメネス種のブドウを天日干しして甘みを凝縮させます。
シェリー酒の製法
通常のワイン同様に秋口、9月上旬頃にブドウの収穫がほぼ手摘みで行われます。
除梗破砕機で果梗(房の木質部分) を取り除き、果実をプレス機に移して果汁を絞ります。
ステンレスタンクで1か月程度の発酵を行います。すると、果汁の糖分がアルコールに変わってエタノール値10%強の辛口白ワインになります。
11月頃までそのまま保管され、ワインの表面にフロール(スペイン語で花)と呼ばれる産膜酵母が浮き上がります。このフロールがシェリー独特の味わいをもたらすのです。
スティルワインであれば産膜酵母の発生した場合は失敗とみなされます
澱を除いてから酒精強化(ブランデー添加) を行います。
フィノは15%まで、アモンティリャードは16%まで、オロロソは17%以上にまでアルコール度数が引き上げられます。
550-600リットルの大型のアメリカン・オーク樽に移して樽熟成に入ります。
ソレラ熟成システムと呼ばれる手法で古いシェリーと新しいシェリーをブレンドしながら熟成が行われます。したがってシェリーは一般的にヴィンテージや熟成年数の概念が存在しません。
このソレラ熟成システムによって、毎年安定した品質のシェリーを出荷することができます。
熟成中のフィノには常にフロールの膜が張っています。
アモンティリャードはフロールの膜の下で十数ヶ月を過ごし、シャープで刺激的な香りとドライな風味を際立たせます。そしてある時期、アルコール度数の高さからフロールが消失し始め、ワインが酸素に触れ第二ステージである酸化熟成へと移行します。次第に色合いを増し、同時に凝縮して複雑さを増します。フロールによる熟成と酸化熟成、このふたつの熟成プロセスの融合によってアモンティリャードの複雑味は生まれるのです。
酒精強化によって高いアルコール度数となったオロロソにはフロールが形成されません。ゆえに酸化熟成のみでワインは色濃く変化していきます。
パロ・コルタドはフィノやの熟成途上で、意図せずにフロールが消失してオロロッソ的になったものです。最初にアルコール度数15%に酒精強化されたフィノの樽にの中でパロにふさわしい質のワインを探し当てると、それはさらにアルコール度数17%以上に酒精強化され、その結果として酸化熟成のプロセスへと方向転換をします。したがって、昔はパロ・コルタドは偶然の産物でしかなかったようですが、醸造法の進歩に伴いフロールがコントロールできるようになり、現在では計画的に造られているとのこと。
それぞれのシェリーは最低3年間熟成(アモンティリャードはさらに数年) されます。熟成を終えたシェリーは清澄処理・冷却処理・フィルタリングなどが行われたのち、瓶詰めされます。
極甘口シェリーを作る際には、ペドロヒメネス種のブドウを使います。収穫したブドウを天日干しして甘みを凝縮させます。
ドイツワインでいうところのアイスヴァインのようなものですな。
また、発酵の途中で酒精強化を行うため、糖分の一部がアルコールに変化しない状態で甘みとして残ります。その後はソレラ熟成システムで酸化熟成させます。
辛口シェリーと極甘口シェリーをブレンドさせたものが甘口シェリーです。ぶどうジュースを混ぜることもあるそうです。
ポートワイン<Port Wine>
ポルトガルにあるポルト港から出荷されていたため、ポルト・ワインとも呼ばれています。ポルトガル北部のドウロ川沿岸が産地。オーストラリアや南アフリカでもポート・タイプのワインが作られています。
糖分が残っている発酵途中に高度数のアルコールを持ったグレープスピリッツ(ブランデー)を加えます。それによって酵母の働きが止まり結果、独特の甘みとコクが生まれます。
アルコール度数は20度前後と通常のワインよりも高くなっています。
基本、ポートワインは開封しても通常のワインのように急激な風味の劣化や変化はほとんどなく、長期保存が可能です。
定められた地域で最低3年間、樽熟成されたものだけが、ポートワインと認められています。40~50年の長期熟成のものもあります。
ポートワインの種類
原料ブドウにはいくつもの品種を用いて混醸し、発酵中のもろみにブランデーを添加して発酵を停止させ、糖分を残したまま熟成させます。
ポートワインは、大きく分けてレッドポートとホワイトポートの2つがあります。
程よい酸味のあるホワイトポートは食前酒として飲まれることが多く、フルーティーな香りのレッドポートは食後酒として好まれます。
【 ホワイトポート 】
白ブドウを原料とし、低温発酵で通常のポートよりも発酵を長くしてからグレープ・スピリッツを添加します。ホワイト・ポートだけは、最低アルコール度数が16.5度まで認められています。比較的辛口タイプが多いですが、甘口もあります。
【レッドポート】
黒ブドウを原料とし、ルビータイプと黄褐色のトウニータイプの2種類に分かれます。
<ルビーポート>
平均3年間の樽熟成を経て瓶詰めされる若いタイプのポートワインです。軽い甘口で一般的なルビーポートになります。
< トウニーポート >
小さい樽で熟成させるために酸化が進み、ワインが黄褐色に変化していきます。熟成期間は10年程度のものが多いです。
< ヴィンテージポート >
当たり年のブドウだけで造られる高級品。
マディラワイン<Madeira Wine>
アフリカ北西岸沖にあるポルトガル領マデイラ島に産する酒精強化ワイン。ブランデーを加えるタイミングが早ければ、まだアルコール発酵していない糖分が多く残った状態で発酵が止まるため甘口に、タイミングが後になるほど糖分の発酵が進み辛口になるのはシェリーやポートと同じです。
ブランデー添加後、独特の方法で熟成を行います。
一般的なものは、容器の中に管が通っていて湯を循環させて加熱するエストファと呼ばれる乾燥炉樽ごと入れて、45~50度程度で三ヵ月以上熟成させます。
高級品やビンテージものは、太陽熱を利用して30度程度に保たれたカンテイロと呼ばれる貯蔵庫で最短でも三年以上、場合によっては百年以上にいたるまでの長期間の加熱熟成を行います。
この工程により、独特の芳醇な香りとこくが生まれる。保存性がきわめて高く、開栓しても劣化が少ない。
マディラワインの種類
辛口 → 辛口 | ||||
酒類 | セルシアル | ヴェルデーリョ | ブアル | マルヴァジーア |
テイスト | 辛口 | 中辛口 | 中甘口 | 暗褐色の甘口 |
セルシアル(辛口)、ヴェルデーリョ(中辛口)、ブアル(中甘口)マルヴァジーア(暗褐色をした甘口)などの種類がある。
イタリア マルサラワイン <Marsala Wine>
シチリア島が産地。イギリスのワイン商人がこの地を訪れ、母国に持ち帰る際、腐らないようにアルコールを足したのが誕生のきっかけとされています。
熟成度合によってテイストが変わり、長期熟成のほうが辛口が多いです。
フィーネ<FINE>1年熟成。
スペリオーレ<SUPERIOR>2年熟成。
スペリオーレ・レゼルヴァ<SUPERIOR RESERVE>辛口からやや甘口までがあり、4年以上の熟成。
ヴァージン・ソレラ<VIRGIN SOLERA>辛口が特徴で、5年以上の熟成。
ヴァージン・レゼルヴァ<VIRGIN RESERVE>辛口が特徴で、10年以上の熟成。
ピノー・デ・シャラント<Pineau des Charentes>
ピノー・デ・シャラントとは、ブドウ果汁にコニャックをブレンドして熟成させた、いわば甘口ワインの一種になります。
すでにおわかりのように、製造上は通常のスティルワインではなく、酒精強化ワインの一種にあたります。
ご存知のように、酒精強化とはブドウを発酵させる際に強いアルコールを加えて発酵をストップさせる手法、というのはすでに最初の項でも述べました。
ピノー・デ・シャラントは酒精強化ワインの中のヴァン・ド・リキュールというカテゴリーに入ります。
ヴァン・ド・リキュールとはフランスにて未発酵のブドウ果汁にアルコールを加えて数年の熟成を経たものを言います。その加えられるアルコールとしてコニャックを使用する場合をピノー・デ・シャラントと呼びます。ちなみにアルマニャックを使用する場合はフロック・ド・ガスコーニュと呼びます。なお、添加されるコニャックはアルコール度数60度以上のコニャックを用いることが定められており、ほかにも下記の条件が必修となります。
- ブドウ果汁とコニャックが同じブドウ園のものでなければならない
- 最低1年は熟成しなければならない
- 出荷時のアルコール度数は16~22度の間
ほかに似たような酒にポモー・ド・ノルマンディーがあります。
これはシードル用のりんごの絞り汁とカルヴァドスを合わせ、樽で熟成させたリキュールです。